カラー版『絵の教室』 安野光雅 (中公新書) [安野光雅]

 私の家庭は、両親ともに絵が好きで、幼い頃から絵に親しむ機会は割と豊富に与えられていたのですが、「教養」というよりは、好きなものを見ればいいという感じで、絵の価値だとか鑑賞の仕方といったことは、特に何も教えられませんでした。ただ、「ここが素敵だねぇ」とか、「この色いいと思わない?」「よくこんな線が引けるよねぇ」という、両親の素直な感想をきいて、「ふぅん」とか、「ううん・・」とか思っていた記憶しかありません。

  そのおかげか、積極的に美術史を紐解いたり、絵に関する知識を欲するようなことが、大人になるまではあまりなかったのですが、2,3年前にこの本をなんとなく立ち読みして、「深いな~」と唸ってしまいました。
 実は新書シリーズに対しては、それまで少しひねくれた見方をしていて、「お手軽な知識本」という失礼なイメージを持ってしまっていたのですが、この本を買ってからは、掘り出し物の良書がないものかと、書店の新書コーナーも頻繁に立ち寄るようになったくらいです。

 この本は、新書というものが大抵そうであるように、細かく章立てられていて、途中から好きなテーマをピックアップして読んでもそれなりに楽しめて、かつどれも面白いのですが、私は特に、「絵と真実」という章を面白く読みました。
 「写真みたい・・・」という言葉がほめ言葉となるひとつの傾向について、どうしてそういった評価が生まれ、今なおありがちなのか。そこにいたるまでの、絵画の始まりであるとか、中世の教会の存在、絵画が社会的にどういう役割を負ってきたか、などなど・・・時代の流れにも沿いながら、写実主義から印象派の時代へとつなげて、解明していくように書かれていて、どんどんページをめくってしまいます。
 そして、終盤にあった、安野さんのお孫さんのエピソードが、とても印象に残りました。4歳くらいのお孫さんが、ウィンドーに飾られた蝋細工のお菓子の模型にくぎづけになったというお話です。その子は、「あまりの本物らしさ」にひかれたらしいのですが、そこで安野さんからの問いかけが入ります。「もし実物が飾ってあったら、食い入るように見ただろうか」と。

 絵や写真などの、「アート」といわれるものについて、「解明しよう」とか「なぜ」という姿勢で相対するのは、以前はなんだか無粋な感じがしてしまっていたのですが、こういう素直な疑問と、それについての考察を読んでから、そうやって考えることこそが自然なことなのかなと、その探究心は、芸術に向かわせる心と根底は同じなんのかも・・・と思うようになりました。
 熱くなって同化するのではなく、静かに思想に耽りながらアートに触れられる、面白い一冊です。
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