『ヴァイオリニスト』 ガブリエル・ヴァンサン/今江 祥智 訳 (BL出版) [ガブリエル・ヴァンサン]

 信州の安曇野の森の中に、とても静かでひっそりとした絵本館があります。この場所については、ちゃんと書こうとすると長くなってしまうので、ここでは詳しくは書きませんが、その場所自体が意思を持って、そこだけの時間の流れを守っているような、とても素敵な場所です。
 学生ではなくなって、あまり頻繁に訪れることはできなくなってしまいましたが、夏休みというものがあった頃は、何度か安曇野旅行に行き、行くと大抵その絵本館を訪れました。
 高校生で、お金のなかった当時は、愛蔵版の絵本や、本に関する美しい本をじっと手に持って眺めては、値段を見て溜息をついていましたが、それでも、「よし、今年はこの本にしよう」と決めた一冊を、じっくりじっくり選んで、旅のしるしのように購入したものです。

 ガブリエル・ヴァンサンの『ヴァイオリニスト』は、そんな本の中の1冊です。
 モノクロのデッサン画と、本当にほんの少しの文字だけで描かれた、ひっそりとした世界が閉じ込められていて、遠い国のどこかに実際にいた人々の影のような本です。
 大人になって、本を手に取ると、文字から情景を描くことが多くなりましたが、この本を読んでいると、本の中の人物たちの、言葉にならない思いを感じます。「記されていない」というよりは、本人たちも言葉にできていない、強いけれども「こう」という型にははめ込むことができていない思い・・・のようなものです。
 気持ちに名前がつけれず、分類もできないとき、不安になったり辛かったりするけれど、でも気持ちって、ほとんどは、そもそもそういうものかもしれないなあ・・・と思います。
 そういう意味で、とてもリアルで、でも、現実よりもそぎ落とされたような美しさがある、不思議で素敵な、影のような本です。
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